大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所秋田支部 昭和51年(行コ)1号 判決

控訴人 秋田営林局長 ほか五名

代理人 小澤義彦、橘内剛造 高橋英一 今野巳代治 子吉三郎 ほか九名

被控訴人 板倉貞一 ほか一六六名

主文

一  原判決中被控訴人らに関する部分を取り消す。

二  被控訴人らの請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  控訴人ら

主文同旨

二  被控訴人ら

1  本件控訴はいずれもこれを棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決の事実摘示および昭和五一年一〇月二〇日付更正決定のとおり(但し、原判決添付当事者目録の原告番号9番原告松田広義、同39番原告谷地政一に関する部分をのぞく。)であるから、これを引用する。

(訂正)

原判決の、

1  七枚目裏末行の「集会」とあるのを「第二一回定期全国大会」と改め、

2  八枚目表六行目に「ストライキを行う旨決定し、」とある次に、「同年一二月五日全国代表者会議を開催し、右半日ストライキの具体的戦術を決定し、同月八日にはこの決定を受けて全地方本部六七分会四二五五名に一二月一一日半日の拠点「職場放棄」を実行するよう指令を発出するとともに、「ストライキ宣言」を発表するに至り、」を加入し、

3  同九行目に「当局の事前の警告を無視して」とあるのを、「各営林署長のストライキ中止を求める事前の警告や林野庁長官のストライキに参加しないことを求める要請文の掲示等がなされたのに拘らず。」と改め、

4  同末行目に「北島啓一」とあるのを「北嶋啓一」と改め、

5  同一一枚目裏三行目に「労働基本権は経済的権利である労働基本権は、」とあるを「経済的権利である労働基本権は、」と改め、

6  同一四行目裏一〇行目に「不可能」とあるのを「可能」と改め、

7  同一八枚目表二行目に「決定」とあるのを「法定」と改め、

8  同二一枚目裏一行目から二行目にかけて「処分」とあるのを「処遇」と改め、

9  同二二枚目裏八行目を次のとおり改める。

「(四) 同1の(二)のうち、林野庁が賃金その他の労働条件について抜本的な処遇改善を行うため関係各省と折衝を続けていたこと、および被控訴人北嶋啓一、同田中哲男、同田村昭一郎、同伊藤光邦、同石山豊らが職場集会への参加、職務放棄の指導をしたことは否認し、その余は認める。」

10  同二三枚目表二ないし四行目を次のとおり改める。

「2 控訴人らの主張2の(1)、(2)のうち、被控訴人らが控訴人ら主張の違反があるとして処分を受けたことは認めるが、別紙当事者目録の被控訴人番号1ないし8の被控訴人らが本件ストライキを企画指導したことは否認し、違反事項である法令の合憲性と処分の適法性は争う。」

11  同二七枚目裏三行目に「原告」とあるのを「控訴人ら」と改める。

12  同三一枚目表七行目を削除する。

(付加)

一  被控訴人ら

1 憲法二八条が、官公労働者を含むすべての勤労者に労働基本権を保障していることに鑑みれば、官公労働者の保有する争議権を軽々しく禁止または制約することは許されず、その争議権否認の根拠となり得るものは、労働者の従事する業務の内容および争議行為の態様からみて、その争議行為によつて「国民生活に対する重大な障害」をもたらすおそれがあることのみである。この見地から国有林野事業に従事する職員につき公共企業体等労働関係法(以下「公労法」という。)一七条一項を適用することの合憲性を考察する。

(一) 水源のかん養機能、土砂流出、土砂崩壊防止等の国土保全機能、その他もろもろの森林の公益的機能は、森林が森林それ自体として存在することによつて、林木と林地とが相まつて発揮される機能であり、右公益的機能を確保するために森林法において必要な森林について保安林の指定制度を定め、同法施行令別表において保安林の施業要件の基準を具体的に定めているが、これを検討すると、結局人為を加えないことにより、すなわち施業を制限ないし禁止することによつて保安林の機能の確保をはかつていることが明らかであつて、公益的機能に対し争議行為の及ぼす影響もない。しかして昭和四五年度の保安林統計書によると、我国の森林面積の約二七パーセントが保安林に指定されているが、その国有林、民有林の保安林面積は略同数であり、保安林の中で特に保全機能が重視され前記別表できびしい施業要件基準が定められている土砂流出防備、土地崩壊防備、なだれ防止、落石防止等の各保安林は圧倒的に民有林に多い。また林木が再生産に長期間を要する以上、林業も林木の再生産期間すなわち林木の育成に要する四〇年、五〇年を一事業期間と考え、労働者、資材等の確保もその期間の事業継続を前提に計画化せざるを得ないものであるから、林業の計画性は国有林、民有林を問わないもので、国有林のみが計画的に運営され従つてその公共性が高いわけではない。

森林の公益的機能を補完する治山事業についても、その大部分は民有林治山事業であり、国はこれについては事業の直営をなさず、事業主である都道府県に対し補助金を交付するのみである。国有林野事業においていう治山事業の事業量の大部分を占める保安林の造成をみても、保安林の造成自体造林を根幹とし、その十分な成果のみられるまで数十年を要するのであり、事業経費が多額を占める山地治山施設事業もその殆んどが土木工事で、その後の植林と森林造成の補完的事業にすぎないのであるから、いずれの事業もその一時的停廃による国民生活に対する影響はないし、治山事業による荒廃地の復旧も、厖大な残存荒廃地につき長期的計画により実施されており、一日、一か月、一か年の単位を争う緊急の公共性を有するものとしては取り扱われていない。

そのうえ、国有林野事業において直営される治山事業もその殆んど全てが民間請負をもつて遂行される関係上、治山関係職員は保安林関係の事業も含めて全職員の二パーセントにすぎないのである。

造林、育林については、農業と異なり、林木が成育しその保全機能を発揮し始めるには最低一〇ないし二〇年を要し、また収穫されるまでには数十年を要するものであり、その季節的制約からくる作業適期の点については、農作業の如き短期間のものではなく相当ゆるやかであり、また育成の点でも自然に委ねておけばすむ面を多分にもつているほか、適期に相当する時期よりかなりはずれて行われているのが現実なのであり、国有林野事業の生産する苗木は国内生産量の僅か一七ないし一八パーセントにすぎず、最近事業削減の傾向にある。

なお、国有林野事業の造林主作業も民間請負によるものが多く、昭和四五年度の場合地拵の五一パーセント、植付の五九パーセント、下刈の五八パーセントが、それぞれ民間請負によつている。

いずれにせよ、作業適期があり季節性があるのは、国有林野事業に特有なことではなく民有林を含むすべての林業についてもいえるものであつて、争議行為という労務の不提供によつて自然の破壊を招くはずもない。

(二) 次に木材の供給と国民生活との関連についてであるが、生産された木材が国民の消費に供されるまでには製材、パルプその他の木材関連工業で加工製品化される過程をとるものであつて、これらの工場に国有林材が直接購入される分は、最も多い製材でも全体の九・二六パーセントにすぎず(昭和四五年度)、争議行為の影響も間接的である。国有林材には立木販売、民間請負によつている部分が六割以上もあるので、国有林野事業からの木材供給が国有林野事業職員の争議行為によつて停廃したとしても右木材関連工業に対しどのような影響をもたらすのか確定することさえできない。また右木材関連工業で加工製品化された製品が出荷され国民の消費に供されるまでの流通機構も極めて複雑多様であつて国有林野事業からの木材供給が争議行為によつて停廃しても、これが製品の需要者に対しいかなる影響をもたらすかを確定することは不可能である。

更に、木材供給の五五パーセントを占める外材の輸入が大手商社に独占され、大手商社が木材の供給、流通に対してもつ支配力、影響力は絶大なもので、国有林野事業などは到底これに比すべきものではないのに、右商社や外材の運送部門に従事する労働者の争議権が制限されていないことは、争議行為による木材の供給停止が国民生活に対し重大な影響を及ぼすなどということがないことの証左である。

(三) 国有林野事業の経済的機能についてみても、昭和四五年度において、我国の木材供給量のうち国有林野事業の職員の手により供給される国有林材は一四・四パーセントであり、国有林材のうち製品生産によつて供給される分は全体の約三九・三パーセントであり、更に直ようによるものは右の八〇パーセントであるから、国有林野事業職員の手によつて生産される分は全国有林材の三一・四四パーセントにすぎない。そして国有林材のシエアは全供給量の一四・四パーセントであるから木材総供給量のうちわずか約四・五パーセントが国有林野事業職員の手によつて供給される国有林材ということになる。そして、木材の持続的供給は国有林、民有林を問わず林業の計画的施業の結果であつて国有林に特有のものではない。また立木、素材の販売方法は随意契約が多く、国有林野事業は単年度収支均衡の予算制度をたてまえとしているので、予定された収入を確保するために価格安定に逆行する販売が行われており、更に立木、素材の販売価格は市場価格逆算方式によつているので市場価格に追随するより他ないのであり、このような諸点と前記国有林材の四・五パーセントというシエア、圧倒的な大手商社の支配力、複雑多様な木材関連工業と流通機構の介在などを総合して判断すれば、国有林材の供給が木材の需要および価格の調整機能を有するものとはいえない。

(四) 右のとおり国有林野事業の業務内容からみて、その職員、組合の争議行為を全面的に禁止しなければならない合理的理由は全くないのであるから、右争議行為に公労法一七条一項を適用することは憲法二八条に違反する。百歩譲つて、国有林野事業の職員、組合の争議行為に何らかの規制理由が認められるとしても、争議行為によつて侵害される他の人権との調整という観点からすれば、労働基本権の制限はあくまで必要最少限度にとどめなければならず、国有林野事業の職員、組合の争議行為を全面的に禁止している公労法一七条一項はこの点からも憲法二八条に違反するといわなければならない。

2 現業の公務員には憲法七三条四号の勤務条件法定主義は直接には適用されず、そうでないとしても、現業公務員は、その職務の性質、内容、更に賃金その他の勤務条件の決定過程が非現業公務員に比しはるかに私企業に近く、賃金が国の支出による点を除いては私企業の労働者と実質上変りがないのであつて、勤務条件法定主義、財政民主主義は現業公務員の団体交渉権、争議権を制約する根拠とはなり得ない。

(一) すなわち、公務員関係を処理することは行政府の当然の権能に属するところであり、国会の授権、委任をまつまでもないところである。憲法七三条四号は、使用者の主観的恣意的支配を抑制するための大綱的な基準を立法事項としたものであつて、憲法二八条との関連で右大綱の具体化やその基準外の事項は労使関係処理の原則に立ちかえり、団交で行うことは使用者としての政府として当然であり憲法上の要請と解すべきである。

(二) また、憲法八三条、八五条は財政民主主義の原則をかかげているが、公労法八条の定める団体交渉の対象事項には財政支出を要しないものや国会の新たな予算支出の決定を要しないものもあり、これらは国会の予算審議権と何らのかかわりをもたないから、国会の権限を侵害することはないし、新たに予算を組むことを必要とする事項についての団体交渉についても団体交渉それ自体、すなわち論議することは国会の審議権との牴触を全く生じない労使関係内部の問題にすぎない。また団体交渉の結果協約が成立し予算上の措置が必要となつた場合、政府がその権能として補正予算案を国会に提出しても、国会はその予算案に対して審議権を有するものであるから何らその審議権を侵害されるものではない。労使間に協約が成立し、その協約に無条件に協約のもつ効力の発生を承認すれば国会の予算審議権を侵害する結果をもたらすであろうが、憲法上の国会の予算審議権と労働者の労働協約締結権相互の調和をはかるためには、その労働協約の効力の制限(すなわち当該協約の効力が国会の承認を停止条件として生ずるとするか、右効力は国会の不承認を解除条件とするとするか、当該協約に基づく支出は国会の承認があるまで差し止められているとするかなどのいずれかの措置)をとれば足りるのである。

予算審議権も憲法的秩序全体のなかで位置づけられなければならない。予算面において国会がいかなる場合においても行政府に対して万能性、絶対的全面的優位性を主張し得るものではなく、行政府の予算執行権の一定の相対的独自性を承認せざるを得ず、予算審議権といえども三権相互間の均衡、抑制の原理をはじめとして憲法上の諸条項との調和、国民の権利保障を前提にして存立することができるのであるから、財政民主主義を論拠とする団体交渉権、協約締結権の全面否認論は財政民主主義を憲法上の最も優越的規定とするものであつて許されない。

(三) とくに被控訴人らのうち別紙当事者目録被控訴人番号1ないし8の被控訴人らをのぞくその余の被控訴人らは定員外の作業員であるが、定員外職員の任用は国家公務員法(以下「国公法」という。)の規定によることなく、人事院規則八―一四「非常勤職員等の任用に関する特例」によつて行われている。右規則は国公法附則一三条に基づく授権規定の明示がなく、従つて人事院の一般的権限によつて制定されたものと解するほかはない。ところが公労法四〇条一項一号は、国公法三条二項の規定は公労法適用の職員には適用されないとしているから、人事院は公労法適用の職員の任免について一般的権限を有していないこととなり、右規則は公労法の適用を受ける国有林野事業に勤務する定員外職員には適用することができないものである。仮に右規則が国公法附則一三条に基づくものとしても、定員外職員は伐木、造林、種苗などの国有林野事業の基幹をなす現場の作業に従事しているのであつて、その職務と責任は定員内職員のそれと実態的に同じであつて、ただ「行政機関の職員の定員に関する法律」(以下「定員法」という。)との関係で非常勤とされているだけなのだから、やはり定員外職員には適用し得ないものである。

しかるに、林野庁当局は、定員法との関係で定員外職員を非常勤職員とし、右規則によつて任免を行つてきたのであり、これは違法であり脱法的運用というほかない。しかもこの脱法的運用は「国有林野事業作業員就業規則」(以下「就業規則」という。)によつて、任期を定めた雇用(雇用期間は常用作業員と定期作業員は二か月で二か月毎に更新され、臨時作業員で月雇いで雇用されるものは一か月で一か月毎に更新される。)であり、これは人事院規則八―一二「職員の任免」一五条の二に違反する違法な雇用であり、解雇についても、国公法上の身分保障を受けておらず、就業規則一三条に照らすと、事業の進捗状況ひとつで、つまり任命権者の業務の都合によつていつでも解雇し得る仕組みであり、賃金については、日給制で、基幹部分の作業では出来高給制であり、労働時間も原則として週四八時間とされ、休息、休日、休憩などで非現業公務員に比して不当な差別を受けており、国家公務員退職手当法、国家公務員共済組合法、国家公務員宿舎法の適用関係でも不利益に取り扱われているのであつて、国公法五九条、六〇条、七九条、八〇条、一〇七条、一〇八条はいずれも適用されない。

更に、「国の経営する企業に勤務する職員の給与等に関する特例法」(以下「給特法」という。)四条の給与準則は、国有林野事業については定められておらず、賃金は全林野労働組合との労働協約によつて定められており、また、給特法五条に給与総額制の定めはあるが、国有林野事業の定員外職員については非常勤職員とされているから同条の給与総額制の適用はなく、定員外職員の賃金は、予算上の取扱いからみるに、歳出予算は項によつて細分されて国会の議決を受けるものであるところ、国有林野事業特別会計歳出予算の国有林野事業費の項のうちの業務費(目)が更に細分化された事業費から支出されているのであつて、右賃金は国会の議決の対象とされるものではなく、国会の議決の拘束を受けない。従つて、林野庁長官は、業務費という目の範囲内において定員外職員の賃金を自由に支出し得る権限を有しており、労使の団体交渉によつて定員外職員の賃金を共同決定することができるのである。

右のようにみてくると、定員外職員について勤務条件法定主義、財政民主主義をもつて争議権、団体交渉権を制約する根拠とすることの誤りが明らかである。

3 以上考察したところによれば、官公労働者に対し争議権を一律かつ全面的に禁止する公労法一七条一項の規定は憲法二八条に違反し無効であり、仮にそうでないとしても、国有林野事業に従事する公務員、とくに定員外職員の行う争議行為について公労法一七条一項を適用することは憲法二八条に違反するものであるからこの適用は許されない。

4 仮に公労法一七条一項が合憲であつて、これが国有林野事業に従事する公務員に適用があるとしても、本件争議行為に国公法八二条を適用することは違法である。

(一) 公労法一七条一項は国民生活全体の利益の確保を目的としたものであるのに対し、国公法八二条に定める公務員に対する懲戒は、指揮命令権や職場秩序の維持によつて使用者としての国の財産権等、その他運営上の諸利益の確保を目的とするものである。従つて、国民生活全体の利益の確保という企業経営外部の要請に基づいて設けられた公労法一七条一項に違反するというただそれだけの理由で違法の評価を受けるにすぎない争議行為を企業経営の立場からその内部秩序に違反するというように評価する余地はなく、労働組合法七条一号にいう正当性を欠くときでなければ争議行為を理由に国公法上の懲戒処分を加えることは許されない。

(二) このことは争議行為の本質から考えても同様である。

争議行為は労働者がその団結体である労働組合自体の団結意思による組織的集団的行為であり、労働者が使用者の設定した通常の業務遂行のための指揮命令体制から一時的、集団的に離脱し、その団結体である労働組合の統制のもとで業務の正常な運営を阻害することであつて、いわば就業規則その他の労働契約上の義務の履行を団結体の意思に基づいて集団的に拒否することにその本質がある。そして、争議行為をするかどうか、いかなる態様の行動をとるかなどはすべて労働組合によつて自主的、組織的に決められ、個々の組合員は労働組合の要請に拘束され、その統制のもとに争議行為を行うのである。

従つて、争議行為はつねに団結体それ自身もしくはそれを組成するところの集団的行為としてのみ評価されるべきもので、使用者はこれに対し、企業の秩序を維持し、業務を組織的に運営するための平常時における優越した地位をもつて臨むことは許されず、争議行為に関与した労働者の個々に対し、秩序紊乱、規律違反を理由とする懲戒をもつて臨むことは許されない。

(三) もし一般の懲戒規定が、公労法一七条一項違反の場合にも当然そのまま適用できるというのであれば、公労法一八条は全く無用の規定といわなければならないのであり、同条の規定に意味を認めようとすれば、それは公労法一七条一項違反に一般の懲戒規定を適用し得ないがためであると解するほかはない。

(四) 被控訴人らの本件ストライキは、労働条件、処遇の改善を目指し、全林野労働組合(以下「全林野」という。)の統一指令に基づき全林野秋田地方本部(以下「秋田地本」という。)の指導のもとに実行された集団的組織的ストライキであるから、その目的と手段において正当であり、右ストライキを全く個人的な行為としてとらえ、秩序違反に対する個別責任の追及を本旨とする懲戒制度に基づき行つた本件懲戒処分には、国公法八二条の適用を誤つた違法がある。

5 本件懲戒処分は、手続が適正さを欠き違法である。

一九七六年四月に開かれた第二回ILO公務員合同委員会は、「公務における懲戒規定と手続」を採択し、日本政府も右委員会に政府側委員を送り右結論の採択に加わつた。この結論に対比すると、本件懲戒処分の手続が適正さを欠き違法であることは明らかである。

(一) 右決議の四項は、「ILOの諸原則と関連する国際基準によつて保護され、一九七五年四月に開催された公務専門総会の結論からみて判断される、通常の労働組合活動を理由に、懲戒手続を発動したり制裁を加えてはならない。」というのであるが、「通常の労働組合活動」はストライキを含むものであるから、争議行為を懲戒処分の事由とすることが許されないのは明らかである。

(二) 右決議第一項は、「懲戒規程の手続の準備、制度および改正は、一九七五年の公務専門総会によつて採択された諸原則に基づいて公務員を代表する関係団体の参加を得て行うべきである。」というのであり、「公務員を代表する関係団体」に公務員の労働組合が含まれることは明らかである。また右決議第二項は、当局がその全職員に対する職務規律を明快、かつ正確な言葉で定義すべき旨を定めているが、我国の国公法による懲戒制度は、労働組合の参加を全く認めていないし、同法八二条の規定は、とうてい明快かつ正確な言葉で定義されているとはいえない。

(三) 更に、右決議は懲戒の手続に関し、七項で、容疑内容を当人等に明確にすること、手続の各段階における労働組合等による弁護を受ける権利、解雇決定に対する意見表明権、独立機関への異議申立権の告知、その他の基準を定めているが、国公法が定める懲戒手続は、右決議に合致していないばかりか、右決議が定める適正手続条項を完全に欠落し、容疑内容が当人に対し、まして労働組合に対し明確にされることはないし、弁明、弁護の制度を否認しているのであり、本件懲戒処分も右決議が最低限のものとして規定した適正手続によることなく、抜打ち的になされたもので、その違法、不当性は明らかである。

6 本件懲戒処分は不当労働行為であつて違法である。

林野庁は昭和三三年ころ、全林野敵視を基調とした労務基本対策なるものをたて、これを営林署段階の全管理者に徹底し、全林野の活動を抑圧するための方策を具体的に指導し、逐次実施してきた。そして昭和三四年ころからは全林野の組織を破壊しようと企図し、林野庁本庁勤務の一部職員を全林野から脱退させ、日林労と称する第二組合を結成させてその育成強化をはかり、他方全林野に対しては口実を構えて団体交渉を拒み、労使慣行を否認するばかりか、大量の協約さえも破棄し、その存在すら無視しようと激しい弾圧を加えてきた。ことに林野庁は、全林野の組織を弾圧するため懲戒の権限を存分に駆使するという方針を一貫し、懲戒処分を濫発してきた。

このような林野庁の指導を受けてきた控訴人らは、全林野の行つた本件闘争を機に、日常活発に全林野秋田地本或いは各分会の組合員として行動する被控訴人らの組合活動を抑圧し、その組織に打撃を与える目的で被控訴人らに本件各懲戒処分を加えるに至つたものである。

本件各処分の理由とされている事実は、前記のとおりその目的、態様からみてまさに正当な組合活動にほかならず、本件各懲戒処分はかかる事実を理由としてなされた不利益処分であり、労働組合法七条一号に該当する不当労働行為であり違法である。

7 本件懲戒処分は裁量権の範囲をこえ、これを濫用してなされたものである。

(一) 国有林野事業における作業員は事業の基幹部隊が殆んど非常勤として処遇され、出来高給制度のもとにあるなど他に例をみない不当な処遇を受けており、被控訴人らの属する全林野は、昭和四一年の二確認、昭和四三年のいわゆる議事録抄No.3の中で約束された雇用安定、処遇改善、常勤性付与の具体的実施を求めてきたのであるが、これに対し当局の態度は、約束の実現を怠り、要求解決を一寸きざみに引きのばしてきたのであつて、これらの全林野の要求、目的、これに対応する当局の態度に鑑みれば、本件争議はやむにやまれぬものであつたのであり非難を受けるべき点はない。

(二) また、本件争議行為当時の現業公務員関係では、全逓東京中郵判決(最高裁大法廷昭和四一年一〇月二六日判決)、都教組、安保六・四判決(最高裁大法廷昭和四四年四月二日判決)等により、公労法、国公法、地方公務員法が各規定する争議行為禁止規定を文字どおり争議行為の全面一律禁止と解すれば違憲たるを免れないこと、官公労働者の争議行為には禁止されていない争議行為の存在することが明示されたのであり、かかる法的状態のもとでは、本件の如き多く山中で林業労働にたずさわる全林野労働者の争議行為は殊に違法視されるべき事由は存しないとの強い法的確信を被控訴人らを含む全ての組合員にもたらす状態にあつた。本件争議行為は、かかる状態のもとで右の認識の上に、つまり違法性の認識が全くなくしてなされたものであり制裁の対象として非難されるべきところはない。

(三) そして、右目的、要求、認識のもとになされた本件争議行為は、単純労務不提供であつて、何ら暴力等を伴つておらず、かつ比較的時間も短い。

(四) 更に、本件懲戒処分は、その職場にあつて部下の指揮監督に当る者とは異なる者によつて職場の具体的秩序維持とは異なる観点から、公務員にも憲法二八条の労働基本権の保障が原則的に及ぶという基調を欠落した、きわめて政治的労務政策としてなされたものであり、具体的事情を全く考慮せず、無差別一律になされたものである。

(五) ストライキの単純参加者は懲戒処分されることがなく、処分がなされたとしても、戒告処分が通常であるところ、林野庁においてのみ単純参加者についても減給処分をすることは極めて不合理であつて違法である。

8 控訴人らの主張に対する認否

控訴人らの主張1、2(一)の各事実は認めるが、同2(二)のうち被控訴人らが本件ストライキを企画、指導したことは否認する。

二  控訴人ら

1 本件ストライキの行われた昭和四五年当時、被控訴人板倉貞一は全林野秋田地本の執行委員長、同田村昭一郎は同副執行委員長、同小塚茂は同書記長、同伊藤光邦は同財政局長、同北嶋啓一、同田中哲男、同伊藤俊夫、同石山豊はいずれも同執行委員であり、別紙当事者目録被控訴人番号10ないし38、40ないし58、102ないし169の各被控訴人らは常用作業員、同59ないし101の各被控訴人らは定期作業員であり、また、原判決添付別表番号2の被処分者中被控訴人湯瀬義明は十和田分会の執行委員、その余の被控訴人らは一般組合員、同3の被処分者中被控訴人加賀谷満、同佐藤貞栄、同斎藤幸三、同畠山鉄治は上小阿仁分会の執行委員、その余の被控訴人らは一般組合員、同4の被処分者中、被控訴人畠山敏夫は能代分会の執行委員、その余の被控訴人らは一般組合員、同6の被処分者の被控訴人らはいずれも角館分会の一般組合員であつた。

2 別紙当事者目録被控訴人番号1ないし8の被控訴人らの処分事由

(一) 秋田地本の指導

秋田地本は、全林野の第四九回中央委員会の決定に従い、全員常用化、常勤制度確立のストライキを成功させるため、昭和四五年一二月四日第六一回臨時秋田地本委員会を開き論議した結果、前記中央委員会決定方針どおり第一波を同年一二月一一日に、第二波を同月一八日(予定)に始業時から正午までの半日ストライキを実施することを決定し、同月七日、同決定を具体化するため第一八回地本執行委員会を開催し、同日午後一斉ブロツク戦術会議を開き、前記全国代表者会議の決定事項の徹底と一二月一一日ストライキの体制固めを確認し、更に現地指導に地本執行委員を派遣し、オルグ、職場大会および総決起大会などを通じてストライキ体制を確立し、同年一二月九日には、「一二月一一日始業時より半日拠点ストライキに突入せよ」との地本指令を発出した。

このような状況の中で秋田営林局長は同月九日文書をもつて秋田地本執行委員長に対しストライキを中止するよう事前の警告を行つたが、右警告にも拘らず、秋田地本は、同月一一日十和田営林署分会、上小阿仁営林署分会、能代営林署分会、角館営林署分会、本荘営林署分会および向町営林署分会の六分会二〇五名にのぼる半日の職場放棄を実施せしめた。

(二) 被控訴人板倉貞一

被控訴人板倉貞一は、前記六分会において実施された「全員常用化、常勤制確立」闘争の本件ストライキに関し、秋田地本執行委員長として終始積極的にその指導に任じた。すなわち、同被控訴人は、

(1) 昭和四五年一一月一六日、一七日開催された前記第四九回中央委員会に出席して基本的ストライキ計画の企画謀議に参画し、

(2) 同年一二月四日の前記第六一回臨時秋田地本委員会を開催し、前記ストライキ計画を企画謀議し、

(3) 同月五日開かれた全林野の全国代表者会議に出席して本件ストライキの具体的戦術決定に参画し、

(4) 同月七日開かれた第一八回地本執行委員会および一斉ブロック戦術会議を開催し、そこで行われた前記具体的ストライキ実施方法について企画謀議し、

(5) 同月九日前記ストライキ突入の地本指令を発出した。

(三) 被控訴人田村昭一郎は、本件ストライキに関し秋田地本副執行委員長として同執行委員長を補佐し、終始積極的にその指導に任じた。すなわち、同被控訴人は、

(1) 前同年一一月一六日、一七日の前記第四九回中央委員会に出席して、そこで行われた前記基本的ストライキ計画の企画謀議に参画し、

(2) 同年一二月四日の前記第六一回臨時地本委員会を開催しそこで行われた前記ストライキ計画の企画謀議に参画し、

(3) 同月七日の前記第一八回地本執行委員会および一斉ブロツク戦術会議を開催し、かつ出席して、そこで行われた前記具体的ストライキ実施方法についての企画謀議に参画し、

(4) 同月一一日の本件ストライキ当日、ジグザグデモ行進、署長に対する抗議などを先頭に立つて指導し、実施せしめた。

(四) 被控訴人小塚茂

被控訴人小塚茂は、本件ストライキに関し、秋田地本書記長として同執行委員長を補佐し、終始積極的にその指導に任じた。すなわち、同被控訴人は、

(1) 被控訴人田村昭一郎についての前記(三)の(1)および(2)の行為と同じ行為をなし、

(2) 前同年一二月七日の前記地本執行委員会および一斉ブロツク戦術会議を開催し、そこで行われた前記具体的ストライキ実施方法についての企画謀議に参画した。

(五) 被控訴人伊藤光邦

被控訴人伊藤光邦は本件ストライキに関し、秋田地本財政局長として終始積極的にその指導に任じた。すなわち、同被控訴人は、

(1) 被控訴人田村昭一郎についての前記(三)の(1)の行為と同じ行為をなし

(2) 前同年一二月四日の前記第六一回臨時地本委員会に出席し、そこで行われた前記ストライキ計画の企画謀議に参画し、

(3) 同月七日の前記地本執行委員会および一斉ブロツク戦術会議に出席し、そこで行われた前記具体的ストライキ実施方法についての企画謀議に参画し、

(4) 同月八日以降角館分会に赴きオルグなどを通じてストライキ体制を確立し、本件ストライキ当日は率先陣頭に立つて指導し、実施せしめた。

(六) 被控訴人北嶋啓一

被控訴人北嶋啓一は、本件ストライキに関し、秋田地本執行委員として終始積極的にその指導に任じた。すなわち、同被控訴人は、

(1) 被控訴人伊藤光邦についての前記(五)の(2)および(3)の行為と同じ行為をなし、

(2) 前同年一二月八日以降十和田分会に赴き、オルグなどを通じてストライキ体制を確立し、本件ストライキ当日、率先陣頭に立つて指導し、実施せしめた。

(七) 被控訴人田中哲男

被控訴人田中哲男は、本件ストライキに関し、秋田地本執行委員として終始積極的にその指導に任じた。すなわち、同被控訴人は、

(1) 被控訴人伊藤光邦についての前記(五)の(2)および(3)の行為と同じ行為をなし、

(2) 前同年一二月八日以降上小阿仁分会に赴き、オルグなどを通じてストライキ体制を確立し、本件ストライキ当日率先陣頭に立つて指導し、実施せしめた。

(八) 被控訴人伊藤俊夫

被控訴人伊藤俊夫は、本件ストライキに関し、秋田地本執行委員として終始積極的にその指導に任じた。すなわち、同被控訴人は、

(1) 被控訴人伊藤光邦についての前記(五)の(2)および(3)の行為と同じ行為をなし、

(2) 前同年一二月八日以降、秋田地本傘下の向町分会(同分会でも本件ストライキが行われた。)に赴き、オルグなどを通じてストライキ体制を確立し、本件ストライキ当日、率先陣頭に立つて指導し、実施せしめた。

(九) 被控訴人石山豊

被控訴人石山豊は、本件ストライキに関し、秋田地本執行委員として終始積極的にその指導に任じた。すなわち、同被控訴人は、

(1) 被控訴人伊藤光邦についての前記(五)の(2)および(3)の行為と同じ行為をなし、

(2) 前同年一二月八日以降本荘分会に赴き、オルグなどを通じてストライキ体制を確立し、とくに、本件ストライキ当日は、ジグザグデモ行進および署長に対する抗議などを先頭に立つて指導し、実施せしめた。

3 被控訴人らの付加主張2について

(一) 定員外職員の任用・任期、解雇について

国が定員外職員を任期を定めて任用しているのは、定員法上の恒常職でないことからするものであり、常勤職員であつても任期を定めることは国公法上認められている(国公法附則一三条本文)。また人事院規則八―一四が法の授権に基づくものであることは、同規則前文において「人事院は国公法に基づき、二か月以内の任期を限られた職員等の任用に関する特例に関し、次の人事院規則を制定する。」と明記していることから明らかである。また、就業規則一三条一項四号および二項の規定は、同規定の設けられた前年労使間に合意された解雇に関する規定を引き継いだものであり、国公法七八条四号と就業規則一三条一項四号および二項とに本質的な差異はない。

(二) 予算における賃金の取扱いについて

給特法四条、同法施行令(昭和二九年六月一日、政令一二〇号)二条により林野庁長官は給特法四条所定の給与準則を定めている。すなわち、給特法は給与準則の形式については特に定めておらず、林野庁では、従前から定員内職員についてはもとより、定員外職員についても給与準則との名称こそ付していないが、給与関係の労働協約の実施等を主たる内容とする林野庁長官通達をもつて給与準則としており、この給与準則に基づいて給与を支給しているのであつて、この点に関する被控訴人らの主張は失当である。

更に、定員外職員の給与について、右の林野庁長官が自主的に給与として定め得る範囲については、法律や予算による強い制約下にあり、林野庁当局が、無制限の当事者能力をもつて協議決定できるものでないことは当然である。すなわち、財政民主主義のもとでは、国の財政を実際に処理することは、政府に委せられているとしても、右財政処理の権限は、国会の議決に基づいて行使されなければならず(憲法八三条)それ故、国自らの事業である国有林野事業についても、国有林野事業特別会計法(昭和二二年三月三一日、法律第三八号)一一条の定めるところにより、その事業予算を国会の審議に附さなければならないことは当然で、林野庁としては、この国会で定められた予算の範囲を超えて、その職員の給与の決定ができないことも当然である。

また、給与の内容についても、給特法三条では、給与の決定基準を法定し、定員外職員を含む公共企業体等の職員の給与については、その職務の内容と責任に応ずるものでなければならない旨、並びに国家公務員及び民間事業の従業員の給与その他の事情を考慮して定めなければならない旨が規定されているものである。

したがつて、単に給与総額制が定員外職員について明定されていないからといつて、右の給与の決定基準が法定されていることを無視し得ないことはいうまでもない。

林野庁の職員の給与が右のような基準及び手続きのもとに決定されるべきものであるから、林野庁当局が、真の使用者である国民を代表する国会の議決を無視し、自由に賃金を決定することは認められず、公労法一六条一項が「公共企業体等の予算上又は資金上、不可能な資金の支出を内容とするいかなる協定も、政府を拘束するものではない。又国会によつて所定の行為がなされるまでは、そのような協定に基づいて、いかなる資金といえども支出してはならない。」とするのも、その趣旨である。

右のとおり、林野庁当局の当事者能力には本来的な制約があるのであつて、国有林野事業に従事する定員外職員の賃金について、単に予算上、科目などで明定していないことの故をもつて林野庁当局が無制限の当事者能力を有していて自由に労働組合と団体交渉を行い労働協約を締結し得るものではない。

4 同4について

(一) 公務員の懲戒制度は、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務すべき公務員の特殊的地位に基づき、公務の執行ないしは公務員に対する国民の信頼を維持することにその目的があり、使用者の利益保護を目的とする私企業の懲戒制度と同一視することはできない。すなわち、公務員の勤務関係は国民の信託、その負託ということによつて基礎づけられるものであり、その見地から公務員には国公法九八条一項、一〇一条一項のほか、九九条、一〇二条ないし一〇四条などが私企業の労働関係にはみられない特殊な服務義務が定められている。法の禁止する争議行為についてもこのことは同様である。国の業務はいずれも法令によつて公務として組織づけられているものであり、それが正常に運営されること自体が国民生活全体の利益と密接な関係にあるというその本質に照らして、争議行為は国の業務の維持の面からする職務秩序に違反するものであるとともに、他面においては公務員として課せられた服務義務に違反する側面をも有し、懲戒処分は免れ得ないところである。

公労法一七条一項が争議行為を禁止している根拠は、基本的には国民生活全体の利益の保障ということにあるが、国民生活全体の利益ということは、公共企業体等の業務の正常な運営を離れては考えられないものであり、業務の正常の運営を確保することこそがまさに国民生活全体の利益を維持増進するものと考えられているのであつて、公労法一七条一項の保護法益を使用者たる国の利益と対立させ、両者をあい容れないものとする見解は失当である。

更に、公労法三条は、民事免責に関する労働組合法八条の適用を除外しているが、組合または組合員の損害賠償責任は明らかに使用者の利益保護を目的とするものであり、公労法一七条一項が保護する法益は使用者たる国の利益を全く排除しているとは考えられないのである。公労法一七条一項は公共企業体等の職員の服務上の禁止規定としての意味をもつものであり、職員が右規定に違反して争議行為に及ぶことは、服務義務違反として違法であり、職員としての義務違反に対する責任を免れない。従つて公務員たる職員が公労法一七条一項違反の争議行為を行つた場合は、そのこと自体国公法九八条一項、九六条一項、一〇一条一項、九九条に違反するとともに、職務上の義務に違反し、または職務を怠つた場合に該当し、同時に、国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合にも該当し、右行為は国公法八二条各号の定める懲戒事由に該当するものとして懲戒責任を免れない。

(二) 次に、個々の労働者は使用者との労働契約に基づいて企業秩序に服することとなるが、この関係は労働契約の存続する限り継続し、労働者が労働組合に加入して組合の団体的統制に服する関係とは別個独立のものとして、両者は併存し、その間に優劣の関係はない。労働者を企業秩序の支配から離脱させることは、たとえ労働組合であつても使用者の意思にかかわりなくなし得るものではない。従つて、争議行為が労働組合の団体行動として展開されるものであるからといつて使用者と個々の労働者との間の労働契約関係が消滅するわけではないし、争議行為である故をもつて組合員たる個々の労働者が企業秩序の拘束から離脱する効果を生ずる理由はない。

ただ一般的にみて、争議行為の場合には労働者に争議権が保障されている関係上、争議行為が正当なものである限り当該行為の故に労働者が企業秩序違反の責を問われることはないが、争議行為が違法なものであれば、当該労働者が企業秩序違反の責を負うのを妨げる理由はない。

前記のとおり公労法一七条一項に違反して争議行為を行うことは違法であり、かかる行為についてまで使用者の統制が及ばないとする根拠はない。

更に、争議行為は、労働組合の行為であると同時に個々の組合員の行為でもあり、個々の組合員は労働組合とは別個独立の法的主体であるから、違法な争議行為については、労働組合が団体としての責任を負うのとは別に、個々の組合員がその責任を負うのは当然である。

5 同5について

被控訴人らは一九七六年のILOの第二回公務員合同委員会の「公務における懲戒手続及び地方公務員の労働・雇用条件に関する結論」に言及し、日本政府も右委員会に政府側委員を送り、右結論の採択に加わつたのに、同結論に対比すると本件懲戒処分の手続が適正さを欠き、違法でもあると主張している。

しかしながら日本政府は、右結論の採択にあたつて「我国の法制は独自な発展をとげてきており、また、勤務条件法定主義の原則をとつてきている。このため、第三議題については……国内法制と完全に一致するかどうかについて若干の解釈を要する問題点が残されている。」と述べた上で、結論が全体として受け入れられると表明されたものであり、従つて右結論の中の一部の条項と国内法制の間に一致しない点があつたとしても、それは結論全体に反するというものでなく、今後の解釈にまたれるというものである。しかも、本結論は、条約あるいは確立された国際法規として直接国内法規を規律する性質を持つものでないことを考えあわせれば、本件事案において、国内法規によつて懲戒権を行使したことが、国際信義に反するとは考えられない。

また、被控訴人ら主張の右結論の邦語訳が適切かどうか疑問のあるところである。(「公務員制度関係資料集」最高裁判所事務総局編三四一頁参照)とくに被控訴人らが指摘する「通常の労働組合活動を理由に……」の「通常」の訳は適切でなく、「正常な組合活動」と訳すべきものである。

「正常な組合活動」の意味については、第二回公務員合同委員会が開催された後ILO総会において公務における団結権の保護及び雇用条件決定手続に関する条約の採択をめぐつて議論が交されたが、その第一次討議にあたる昭和五二年六月の第六三回ILO総会では、団結権の保護についての議論の中でアメリカ政府の代表が公的被用者団体の「正常な活動」nomal, activities,という語は昭和四五年の公務に関する技術会議では、ストライキを違法であると宣言する政府の権利をいかなる意味においても制限するものではないという理解の下に受け容れられたものであり、ストライキが「正常な活動」だということはできないと述べたところ、日本政府やオーストラリア政府の支持するところとなり、これが異議なく委員会の報告に記載されているのである。

なお、本結論が採択された後、昭和五三年一一月一一日、ILO結社の自由委員会は、日教組の申立に対する報告において国内法規によつてストライキを禁止し、かつ、禁止違反行為に対して国内法の規定に基づき懲戒処分を課することを妨げないとの趣旨の見解を示しており、従つて被控訴人らの主張する法理が国際的に建認されたものでないことは明らかである。

また、懲戒規定の手続きの準備、制度及び改正は公務員を代表する関係団体の参加を得て行うべきである、とされていると指摘しているがそれは国会が懲戒規定の制定・改廃することについて、これらの関係団体の意見を聞き協力を求めるという趣旨のものと解され、そのような手続は議会制民主主義の下において立法するについての通常の手続として広く行われていることであり、このような手続を求める公務員合同委員会の結論と矛盾するものでない。

公務員合同委員会等の結論を理解するに当たつてはこれらを全体として把握すべきであり、個々の条項の片言隻語をとらえて、その意味をうんぬんすべきでない。全体としてみた場合に、公務員に対する懲戒手続あるいはその規定の実施が公正に担保されているか否かという観点から判断すべきものである。

このような観点からすれば、我が国の国公法及び人事院規則が定めている懲戒規定及びその実施は、懲戒処分が公正に行われるよう懲戒処分を受けるものの立場を十分配慮しており、右公務員合同委員会の結論の趣旨に反するものではない。

6 同6の主張事実は否認する。

7 同7の主張について

(一) 被控訴人らの懲戒権濫用の主張は争う。

(二)(1) 林野庁は昭和四五年二月二四日に全林野に対し、常勤性を付与するという法制上の措置は、他省庁の雇用のあり方との関連があり、政府全体の任用の方針との間に更に調整を要することなどから、林野庁独自の判断では行い得ないので、昭和四五年度実施は見送らざるを得ない旨説明した。その後同年三月二六日に常勤性付与の問題は、特に他省庁に所属する定員外職員の位置づけの問題が生じており、これとの関連で少なからず影響を受けることが予測されるなど極めて困難な事情のなかではあるが、昭和四六年度を目標に実施すべく、七月末を目途に組合に説明する旨説明し、同年七月にいわゆる「七月提案」を全林野に対し非公式に提示した。

その後全林野は、同年九月七日の団体交渉で林野庁に対し、「七〇年代国有林合理化に対する質問メモ」として三二項目にわたる質問を提出したが、この中で「今日の段階で常勤制の確立(差別撤廃)、労働時間の短縮、第一線現場の環境改善等について具体策をたて、実施に移すべきである。」として常勤制確立を求め、これに対し林野庁は同年一〇月二七日、「常勤性の付与については昭和四六年度に実施をはかるべく関係省庁と折衝中である。」と回答した。その後同年一二月九日、一〇日の団体交渉において林野庁は、「基幹作業員の任用方法はすでに説明したとおりであり、現行の常用定期作業員の全員を基幹作業員にする考えはない。しかし実施時期については来年度実施を目指して今後十分協議を進め、その実現に努力してまいりたい。従つて組合の自重をせつに要望する。」との趣旨の回答を行つたが、全林野は当局の発言中に一斉に席を立ち、一二月一一日始業時から本件のストライキを行つたものである。

常勤性問題は、ひとり林野庁長官の権限、判断において処理することができる事案ではなく、法改正はもとより、関係諸法令との調整あるいは国家公務員制度上の問題などの観点から関係省庁との事前の折衝を要するものであり、従つて本問題に関する林野庁の態度は、常に関係各省庁との折衝を前提として、その方針なり考え方を全林野に明らかにしているものであり、全林野も本問題の本質を理解しているが故に国会議員を介して国会の場で政府の統一見解を求めている。このような事情のなかで林野庁が、「国有林野事業経営のため将来にわたつて確保していく必要のある基幹的な要員を行政機関定員令が適用されない常勤職員扱いとするよう措置する方針について関係省庁の了解を得たのは昭和五〇年三月三一日であつたことからしても、本問題は予想以上に困難な問題であつたといえるものである。

このような性格を有する事案について全林野がその要求貫徹のため行つた本件ストライキは、立法府に対し政治的解決を図ろうと意図するものであつて、その違法性は強いものといわなければならない。

(2) 公労法一七条一項は違法な争議行為を未然に防止しようとするものであり、公企体等の職員の争議行為に対する行政上の責任を問う場合に、その行為が国民生活に及ぼした影響の重大性は責任加重の事由とはなり得ても、その影響の過少性は絶対的な軽減事由となし得ないことも明白である。

(三) 全林野が昭和四〇年三月一七日から同四七年五月二五日までの間に行つた争議行為の目的、規模、態様とこれに対する懲戒処分の状況は別表一のとおりであり、この期間中に秋田営林局および同管内営林署において行われた争議行為とこれに対する懲戒処分の状況は別表二の1のとおりである。

そして、本件で停職の懲戒処分を受けた被控訴人らはすべて本件ストライキ前後に懲戒処分歴があるが、その処分内容は別表二の2のとおりであり、その余の被控訴人らの本件ストライキ前後において懲戒処分および矯正措置を受けたことのある者は別表二の3のとおりである。

(四) 「公務員につき、国公法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきものである。」(最高裁昭和五二年一二月二〇日第三小法廷判決・民集三一巻七号一一〇一頁)から裁量権の行使については「それが社会観念上、著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべき(前掲最高裁判決)」であつて、裁量権の範囲が広範であることは明かである。

しかして、本件懲戒処分は被控訴人らの明白な義務違反の行為に対して発動されたものであり、本件懲戒処分を行うに当り、懲戒権者は、懲戒事由に該当する行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員および社会に与える影響等諸般の事情を考慮して(前掲最高裁判決参照)決定したものであつて、懲戒処分としては比較的軽微な処分が選択されたものである。

したがつて、本件懲戒処分はもとより「全く事実上の根拠に基づかない」というものでなければ、「社会観念上著しく妥当を欠く」というものでもなく、懲戒権濫用のそしりを受けるいわれは全くないというべきである。

第三証拠 <略>

理由

一  原判決の事実摘示第二の一、1(被控訴人らの地位)、2(懲戒処分)の各事実は当事者間に争いがない。

二  そこで控訴人ら主張の本件懲戒処分の適法性につき検討する。

1(一)  控訴人らの前記付加主張1および2(一)の各事実並びに原判決の事実摘示第二の三、1、(二)(本件争議行為)中、「林野庁が処遇改善を行うため関係各省と折衝を続けていたこと、被控訴人北嶋啓一、同田中哲男、同田村昭一郎、同石山豊、同伊藤光邦らが職場集会への参加、職務放棄を指導したこと」をのぞくその余の事実、別紙当事者目録被控訴人番号1ないし8の被控訴人らをのぞくその余の被控訴人らが本件ストライキに参加してこれを行つたこと、被控訴人らが原判決の事実摘示第二の三、2、記載の違反があつたとして本件懲戒処分を受けたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

(二)  別紙当事者目録被控訴人番号1ないし8の被控訴人ら八名の処分事由の有無について調べるに、前記争いのない、控訴人らの付加主張2、(一)の事実および原判決の事実摘示第二の三、1、(二)中の事実、右被控訴人ら八名の秋田地本における役職、および<証拠略>によれば、特段の反証もないので、控訴人らの前記付加主張2、記載の右被控訴人ら八名の処分事由のうち、被控訴人板倉貞一が右2、(二)の(2)、(4)、(5)の、被控訴人田村昭一郎が同(三)の(2)、(3)の、被控訴人小塚茂が同(四)の(1)、(2)の、被控訴人伊藤光邦が同(五)の(1)、(2)の、被控訴人北嶋啓一が同(六)の(1)の、被控訴人田中哲男が同(七)の(1)の、被控訴人伊藤俊夫が同(八)の(1)の、被控訴人石山豊が同(九)の(1)の各所為をなし、もつて本件ストライキの準備および実施について各自の役職に応じた指導的役割を果したものと推認することができる。

2  被控訴人らは、公労法一七条一項は憲法二八条に違反し、そうでないとしても、同条項は労働者の従事する業務の内容および争議行為の態様からみてその争議行為によつて国民生活に対する重大な障害をもたらすおそれがあるもののみを禁止していると解することによつてのみ合憲であるとの見解に立ち、この観点から同条項を国有林野事業の職員の争議行為に適用することや本件ストライキに適用することは憲法二八条に違反する旨主張するが、公労法一七条一項の規定が憲法二八条に違反するものでないことは、最高裁判所の判例((1)昭和四四年(あ)第二五七一号同五二年五月四日大法廷判決・刑集三一巻三号一八二頁、(2)昭和五一年(行ツ)第七号同五三年七月一八日第三小法廷判決・民集三二巻五号一〇三〇頁、(3)昭和五三年(オ)第八二八号同五六年四月九日第一小法廷判決・民集三五巻三号四七七頁)とするところであり、右規定を国有林野事業の職員に適用する場合に限つて、あるいは争議行為の態様如何によつてこれを異別に解すべき理由がないことも右(1)、(2)の判例に照らして明らかであるから、右主張は採用できない。

3  そうすると、本件ストライキは公労法一七条一項に違反する違法なものであり、別紙当事者目録の被控訴人番号1ないし8の被控訴人らをのぞくその余の被控訴人らの各所為は同条項によつて禁止された同盟罷業に該当するので同項に違反し、かつ国公法九六条一項、九八条一項、一〇一条一項に違反するから同法八二条一、二号に該当するということができ、また右目録被控訴人番号1ないし8の被控訴人ら八名の各所為は、公労法一七条一項によつて禁止された同盟罷業の共謀、そそのかし、あおり行為に該当するということができるので同項に違反し、かつ国公法九九条に違反し、同法八二条一、三号の懲戒事由に該当するものということができる。

4  被控訴人らの付加主張4について

公労法一七条一項は、国民生活全体の利益の確保のみを目的とするものではなく、財政民主主義にあらわされている議会制民主主義の尊重をも目的とするものと解され(前掲最高裁判所昭和五二年五月四日判決)、また、国民生活全体の利益の確保は、公共性を有する国の経営する企業の業務の正常な運営ということ(すなわち使用者たる国の利益)をはなれては考えられないから、同項が国民生活全体の利益の確保という企業経営外の要請に基づいてのみ設けられた規定であると解する理由はなく、同項により禁止されている争議行為が、国公法八二条各号所定の、同法または同法に基づく命令違反、職務上の義務違反、職務を怠る場合などにそれぞれ該当するときは、同条所定の懲戒処分に付することができ、(前記最高裁判所昭和五三年七月一八日第三小法廷判決)同法八二条以下の懲戒に関する規定と公労法一七条一項、一八条とは併存的に適用されるものと解される。

また、労働者の争議行為は労働組合の統制のもとで集団的に労務の提供を拒否する行為ではあるが、争議行為によつて、労働者たる被控訴人ら現業公務員と使用者たる国との間の個別的な任用または雇用上の権利義務の法律関係が当然に消滅するわけではなく、ただ一般的に労働者の正当な争議行為に対し懲戒をもつて問責し得ないのは別として、現業公務員については公労法一七条一項により争議行為を行うことが全面的に禁止されているので、この禁止を犯し違法となる争議行為に参加し、服務上の規律に違反した個人が懲戒責任を免れないことは明らかである(前掲最高裁判所昭和五三年七月一八日第三小法廷判決)。

よつて被控訴人らの前記主張4は採用できない。

5  被控訴人らの付加主張5について

<証拠略>によれば、一九七六年四月のILO第二回公務員合同委員会で被控訴人ら主張の結論(但しその内容が被控訴人ら主張と一部異なることは後記のとおり。)を採択し、日本政府もこれに加わつていることは認められるが、右結論は、条約あるいは確立された国際法規といえないから、直接我国を拘束するものではなく、本件争議行為につき国内法によつて懲戒権を行使したことが違法となるものではない。

また、右第二回公務員合同委員会結論のうちの「公務における懲戒規定及び手続」の四項中、被控訴人らのいう「通常の労働組合活動」は、「正常な労働組合活動」と訳すべきものと解され(最高裁判所事務総局「公務員制度関係資料集」三四一頁)、そして、「正常な労働組合活動」は、「公務における結社の自由及び雇用条件決定手続を議題とする第六三回ILO総会で昭和五二年六月設置された公務委員会の「公務における結社の自由及び雇用条件決定手続」(公務委員会第一次討議報告書)には、「ある委員は、公的被用者団体の『正常な活動』という語は、昭和四五年のILOの公務に関する技術会議では、ストライキを違法であると宣言する政府の権利を制限するものとは解釈できないこと、またストライキは『正常な活動』であることを意味しないことという理解で受け入れたことを想起した。この理解は委員会によつて受け入れられた。」と記載されている(前掲「公務員制度関係資料集」一六六頁)ことに照らすとストライキを含まないと解するのが相当であるし、右「公務における懲戒規定及び手続」の一項は、懲戒規定の制定、改廃等につき公務員を代表する関係団体にもその決定権限を与えたとの趣旨のものとは解されず、同規定は、公務員を代表する適当な団体に対し、右制定、改廃等につき権限ある当局(国会)に意見を表明する権限を保障した趣旨のものと解され、そうであれば議会制民主主義をとる我国の立法手続に照らし国公法が右一項に違反するとまではいえない。

6  被控訴人らの付加主張6について

控訴人らの行つた本件懲戒処分が被控訴人らの組合活動を抑圧し、その組織に打撃を与える目的でなされたものであることを認めるに足りる証拠はなく、前記のように本件懲戒処分は違法と評価される本件ストライキに対する責任を問うものであるからこれを不当労働行為ということはできず、被控訴人らの右主張も採用できない。

7  被控訴人らの懲戒権濫用の主張について

(一)  原判決の事実摘示第二の三、1、(一)(1)のうち国有林野事業に従事する作業員の制度上の地位が控訴人ら主張のとおりであることは当事者間に争いがなく、本件ストライキ当時までの国有林野事業の雇用制度および定員外職員の処遇に関する認定は、原審の認定(原判決三三枚目表二行目から同三五枚目裏四行目まで)と同一(但し、認定に供する証拠として「当審証人木村武の証言」を加え、原判決三三枚目裏四行目に「常勤」とある部分、同六行目に「常勤一三六名」とある部分をそれぞれ削除し、同三四枚目裏七行目に「全体産業」とあるのを「全体産業(但し五〇〇人以上の規模)」と改める。)であるからこれを引用する。

(二)  原判決の事実摘示第二の三、1、(一)、(2)のうち、雇用安定、処遇改善の二確認が全林野と林野庁との間でなされたこと、同1、(一)、(3)のうち昭和四三年一二月林野庁が臨時的雇用制度を抜本的に改めるべき基本姿勢を示したこと(いわゆる議事録抄No.3確認)、昭和四五年七月林野庁からいわゆる七月提案がなされたことは当事者間に争いがなく<証拠略>および前記当事者間に争いのない事実によれば、前記二確認をめぐる労使間の交渉の経過について概略次の事実が認められ、<証拠略>の各証言中右認定に反する部分は<証拠略>に対比して採用できず、他にこの認定に反する証拠はない。

全林野は、従前の下請、臨時的雇用形態を打ち破るべく、昭和四一年三月二五日に雇用安定を図る直営直用の拡大を、同年六月三〇日に通年雇用の拡大、雇用期間の延長、福利厚生面の拡充等を骨子とする二確認を林野庁との間でなし、以後この二確認の具体化と現実化を目指して交渉を重ね、昭和四二年一二月二三日、差別を撤廃し臨時雇用制度を抜本的に改善する要求並びに第一線現場の環境改善に関する要求等についてのいわゆる団体交渉議事録抄No.1を確認し、更に昭和四三年四月一二日には現場作業員の常用化を図るいわゆる議事録抄No.2の確認をし、同年一二月二七日には林野庁との交渉の結果、〈1〉基幹要員については通年雇用に改める。〈2〉基幹要員については常勤性を付与する。〈3〉処遇関係についても常勤性にふさわしいように改善する。との事項が確認され(いわゆる議事録抄No.3)、併せて林野庁は当面検討中のものを昭和四四年一月までに具体案を示すとのことであつたが、昭和四四年三月二九日に、常勤性付与については関係各省庁と折衝中で未だ調整がつかないが、今後すみやかに実施するべく努力をし、常用化についても休業期間を含む通年雇用の検討をすすめるとのいわゆる議事録抄No.4を確認したこと、このような労使交渉の中で、冬山作業の実施可能性の追求や各種事業の組合せ等による事業の平準化によつて、昭和四一年以降同四五年までの間に全国で約一万名が定期作業員から常用化され(秋田営林局管内における昭和四二年から同四五年までの常用化数は合計五六〇名)、作業員の処遇も徐々に改善され休暇日数の増加とその有給化や諸手当の改良が加えられたが、全林野は、二確認以後未だ林野庁の基本的姿勢に変りがないとして、昭和四四年一二月六日には常勤性付与の具体化をせまるストライキ配置を予定したが、林野庁の昭和四五年度実施を図るべく努力するとの回答によりストライキを回避したこと、その後林野庁は、昭和四五年二月二四日常勤性付与という法制上の措置は他省庁の雇用のあり方との関連があり、政府全体の任用の方針との間にさらに調整を要することなどから昭和四五年度実施は困難であつて同年度実施は見送らざるを得ない旨説明し、更に同年三月二六日、同四六年度実施を目標に実現するべく七月末に組合に説明するとし、同月二八日予定されていた全林野の二時間の拠点ストライキの回避にあたつたこと、そして同年七月林野庁は全林野に対し事務段階の素案であるいわゆる七月提案(雇用区分改正案として、従来の作業員の雇用区分を改め、基幹作業員、臨時作業員に区分し、基幹作業員は資格要件を定め、現行の常用、定期作業員から選考する、基幹作業員については国公法上の常勤職員として取り扱う等)を提示したこと、これに対し、全林野は、右提案は基幹作業員にのみ常勤性を付与するもので、しかも基幹作業員には職種を特定し、選択を行い、年齢を制限するものであつて組合要求とは相容れないものとしてストライキをもつて対抗することを決議するとともに、右提案をめぐつて労使交渉を続け、同年九月七日の団体交渉で林野庁に対し、「七〇年代国有林合理化に対する質問メモ」を提出したがその中で常勤制の確立を求めたこと、これに対し林野庁は同年一〇月二七日「常勤性の付与については昭和四六年度に実施を図るべく関係省庁と折衝中である。」と回答したが、昭和四五年一〇月二七日農林政務次官において国有林野事業の再検討に関する私案として「行政と経営の分離をも含めて再検討を加える。」と提案し、その後林野庁は、同年一二月一日、「常用化については昭和四七年度から五か年計画の中で展望を明らかにする、同四六年度分は政府予算確定後の実行段階で明らかにする。」旨回答したため、全林野は、林野庁に、直営直用の拡大、常用化をすすめる考えがないものと受けとめ、ストライキをもつて局面の打開を図ることとし、ストライキを背景になされた昭和四五年一二月一〇日の団体交渉において、林野庁が、「現時点においては常勤性付与の問題と通年化との問題を直接関連づけて考えておらず、基幹作業員の任用方法はすでに説明したとおりであり、現行の常用、定期作業員の全員を基幹作業員にする考えはない。しかし常勤性付与の問題については来年度実施を目指して今後十分協議をすすめ、その実現に努力してまいりたい。従つて切に組合の自重を要望する。」との回答中に一斉に席を立ち、昭和四五年一二月一一日本件ストライキを実施するに至つたこと、雇用の安定については、国有林野事業の事業量、作業適期による制約があり早急に全定期作業員の通年化、常用化を行うことは困難であり、また定員外職員である作業員に対する常勤性付与の問題は他省庁にもみられるものであつて、林野庁のみの問題ではなく、常勤性付与という法制上の措置は、他省庁の雇用のあり方との関連があり政府全体の任用の方針との間に調整を要する問題であるため、林野庁は、人事院、行政管理庁、総理府人事局、大蔵省等関係省庁との折衝をしてきたものであるが、定員外職員である非常勤職員の常勤化の問題は林野庁固有の事項でないなどの理由でこれら関係省庁の了解を得るに至らず、林野庁が「国有林野事業経営のため将来にわたつて確保していく必要のある基幹的な要員を行政機関職員定員令が適用されない常勤職員扱いとするよう措置する方針」について関係省庁の了解を得たのは昭和五〇年三月三一日であつたこと、以上の事実が認められる。

(三)  右(二)の認定事実によると二確認および議事録抄No.3などで約束された雇用安定、常勤性付与、処遇改善が全林野の要求どおりには具体化あるいは実施されてはいないけれども、林野庁当局において本件ストライキに至るまでの間右二確認等の具体化、実施を故意に怠り引き延ばしてきたとは認められないから、本件ストライキが全林野としてやむにやまれぬもので非難を受けるべきものでないとの被控訴人らの主張は採用し難い。

(四)  最高裁判所昭和三九年(あ)第二九六号事件同四一年一〇月二六日大法廷判決、同昭和四一年(あ)第四〇一号事件同四四年四月二日大法廷判決、同昭和四一年(あ)第一一二九号事件同四四年四月二日大法廷判決は、「労働基本権の制限はその職務の停廃が国民生活に重大な支障をもたらすおそれがあるものについてこれをさけるため必要やむを得ない場合に限られるべきである、労働基本権の制限違反に伴う法律効果は必要な限度をこえないように十分配慮されるべきで、とくに勤労者の争議行為等に対して刑事制裁を科することは必要やむを得ない場合に限られるべきである」旨の見解を示しているが、右判決はいずれも刑事事件に関するものでありかつ右見解に対する反対意見や意見が付されていることに照らすと、本件ストライキ当時、右判決の見解が官公労働者の争議行為に対する懲戒処分について適用されるとの確信をもたらす状態に至つていたとまではいえないから、右判決で前記見解が示されたことを理由に被控訴人ら全林野労働者が違法性の認識なく本件ストライキに及んだものとしても、これをもつて非難可能性がないということはできず、この点に関する被控訴人らの主張は採用できない。

(五)  本件懲戒処分がその職場にあつて部下の指揮監督に当る者とは異なる者によつて、職場の具体的秩序維持とは異なる観点から政治的労務政策として、無差別一律になされたとの被控訴人らの主張事実はこれを認めるに足りる証拠はないし、また、本件懲戒処分前の事情としてストライキの単純参加者は懲戒処分をされたことがなく、なされたとしても戒告処分が普通であつたことを認めるに足りる証拠はない。

(六)  <証拠略>によると、被控訴人らの本件ストライキ当時までの懲戒処分歴(その有無をも含む。)は別表二の2、3の各該当欄記載のとおりであることが認められる。

(七)  なお、国有林野の事業態様と本件ストライキによる影響についての認定は、原審の認定(原判決三八枚目表三行目から四〇枚目表八行目まで)と同一(但し原判決四〇枚目表一行目から六行目にかけて、「本件争議による、、、戒告以上のものはなかつたこと」とある部分を削除し、認定に供する証拠として「当審における被控訴人小塚茂、同北嶋啓一各本人尋問の結果」を加入し、原判決三八枚目表末行に「森林面積は」とある次に、「昭和四五年四月一日現在で約」と加入し、同裏二行目に「七八四万ヘクタール」とあるのを、約七八五万ヘクタール」と、同四行目に「約八億七、一〇〇万立方メートル」とあるのを、「約八億六五〇〇万立方メートル」と各改め、同三九枚目表一行目の冒頭に「我国における用材総供給量は」と加入し、同末行に「八〇パーセント余」とあるのを「その殆んど」と、同裏一行目に「全体として国有林材を」とあるのを、「国有林材供給量を」とそれぞれ改める。)であるからこれを引用する。

右事実によれば、本件ストライキにより国民生活や国有林野事業にいかなる影響が生じたかは明らかではないが、国有林野事業が、計画的統一的にその業務を遂行していることおよび本件ストライキが全国的規模で行われていることを併せ考えると、本件ストライキの右事業に対する影響が全くなかつたものとも断じ難いところである。

(八)  以上みてきた本件ストライキに至るまでの経緯、その規模、別紙当事者目録被控訴人番号1ないし8の被控訴人らの各役割、被控訴人らの処分歴等を総合すると、右ストライキの目的、右ストライキが何ら暴力等を伴つていない点を考慮してもなお被控訴人らに対する本件各懲戒処分は、いずれも社会通念上著しく妥当を欠くものとまではいえず、控訴人らが処分権者としての裁量権を濫用したとは認め難いので、従つて被控訴人らの懲戒権濫用の主張も採用できない。

三  右のとおりみてくると、各被控訴人に対してなされた本件各懲戒処分は適法というべきであるから、その取消を求める被控訴人らの請求はいずれも理由がないものといわなければならない。

よつて、被控訴人らの請求を認容した原判決は不当であるから、民事訴訟法三八六条により原判決中の被控訴人らに関する部分を取り消して、被控訴人らの請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤和男 武藤冬士己 武田多喜子)

別表 <略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例